Hさんに寿司を握るよう言われてからしばらく後、
再び呼ばれた。
目の前のまな板の上にタイの柵が乗っている。
「これを切って見て。」
「どの位の大きさに切りますか?」
「12グラムに切って。」

実は2日前に、ナンバー2のTさんにタイの切り付けの説明を受けていた。
それによると明確なサイズの決まりは無いそうで、
重さは12グラムで決まっているものの、長さは12センチ位に
切っているという事であった。
東京すしアカデミーではネタの切り付けについてはサイズ、重さ
共に数値を決めて練習していた。
柵の形は魚にもよるが、キッチリとした長方形では無いので
一枚一枚のサイズが決まっているという事は、極端に言うと
一枚一枚切り付けの角度が変わって来るという事だ。
それがサイズ指定が無いという事は、ある意味では簡単だ。

東京すしアカデミー卒業後は私の場合、本格江戸前寿司の店に就職する
という事はまず無いと思っていた。
現実的な所としては、回転寿司店勤務になる可能性は高いと考えていた。
とすると丸々一匹の魚を捌くより、柵取りや切り付けが重要になると
考えて練習して来た。

そういった準備もして来たので、切り付けしてみろと言われれば
寧ろ望むところである。
但しサイズの指定が無いのが、ある意味では感覚が掴みにくい。
柵の置き方も違うので、若干アウェー感がある。
かなり緊張しながら切り付ける。
「!...」包丁が全然切れない!白身なのでもともと硬いのは硬い。
しかしそれにしても切れない。
とは言え「この包丁全然切れないじゃん!」とも言えない。
私が苦戦しているのを見て、Hさんも「朝締めたやつだから。」と
フォローなのかどうかは分からないが言う。

とにかく背と腹の柵一枚ずつを切り終わる。
それをHさんが一枚ずつはかりに乗せる。
13グラム、13グラム、12グラム...ハッキリ言ってガッツポーズである。
1グラムの違いは東京すしアカデミーでも正解とされていたからだ。
気のせいかHさんも感心しているように感じられる。
「また時間のある時に教えるから。」
「お願いします。」

改めて「ありがとう東京すしアカデミー」

投稿者

mojo

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